昨年元日の能登半島地震で被災した輪島塗職人の仮設工房(石川県輪島市)が今春、全室完成した。最後に入ったのは山根敏之さん(45)。能登を離れて自動車部品工場に勤めたが戻ってきた。輪島で培った技術を、磨き続ける覚悟を決めた。
輪島市内10カ所につくられたコンテナ型の工房。昨年4月から順次完成し、希望する職人の入居が完了した。85室あり、それぞれ25~30平方メートルの板張りの空間に洗い場も備える。
器の形をつくる「木地師(きじし)」の山根さんは、4月初めに最後の1室に入った。粗削りな木の塊をろくろで回転させて刃物をあて、滑らかな椀(わん)などの形にする。分業が一般的な輪島塗の最初の工程を担う。
輪島市で生まれ育ち、祖父も父も木地師。細部にこだわりを持つ作家から注文を受けることも多く、応えることで磨かれた腕には自信があった。
だが昨年元日の地震で、両親と暮らす2階建ての自宅は1階が押しつぶされた。家族は無事だったが、父と働く併設の仕事場は倒壊した。夜、避難した高台からは炎に包まれる朝市通りが見えた。
「もう終わったな」
一帯には輪島塗の工房や販売店があった。輪島の街ではもう、自分の技能は生かせそうもない。
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